肥満と動脈硬化


 昔から、肥満者では血栓性疾患の頻度が高いことが知られていました。血栓性疾患とは血栓により血管が詰まることにより引き起こされる病気の総称です。

 健康人では血液は凝固(固まる)と線溶(溶かす)のバランスがうまくとれています。凝固の力が少ないと血が止まらなくなります。強すぎると血のかたまりが出来てしまいます。

 さて、脂肪組織はPAI-1と呼ばれる物質を分泌しています。これは、線溶を活性化するのを邪魔する働きがあります。要するに相対的に凝固が亢進します。血液が固まりやすくなるわけです。心筋梗塞や静脈血栓症などの血栓性疾患の患者さんの血液を調べてみるとPAI-1が増加していることはすでに、多くの研究者によって報告されています。

 また、血液中のPAI-1はおなかの中の脂肪量と比例することもわかっています。おなかの中の脂肪(内臓脂肪)はCT検査により比較的簡単に知ることが出来ます。

 さらに、PAI-1のように線溶系を抑制するものは動脈硬化を促進させることも知られています。  最近、脂肪組織はアディポネクチンというタンパクを分泌しているということが、発見されました。これは、日本の研究グループを含む4つのグループがほぼ同時に発見したといわれています。

 このアディポネクチンの血中濃度は、肥満者や心筋梗塞の患者さんで低くなっていることがわかりました。また、肥満者が減量すると血中のアディポネクチン量が増加することも知られています。

実験的に血管の内側を傷害するとその部位にアディポネクチンが集積することもわかっています。どうもアディポネクチンは動脈硬化を防ぐ方向に働く物質のようです。

また、糖尿病の患者さんでは血中のアディポネクチンが低いという報告もあります。動物実験ではアディポネクチンを補充すると糖尿病状態が改善した、という報告もあります。アディポネクチンはインスリン感受性(インスリンの効き方)とも深い関連があるようです。

 いずれにせよ、肥満があるといろいろな方面で悪いことが進行します。正しい食事療法と適切な運動療法で肥満を解消することが重要です。


目次(10)に戻る 前の号を読む 次の号を読む ホーム・ページに戻る