血糖値とは何か


今回は、ちょっと変わったことについて考えてみます。「血糖値」という言葉はすでにご存 知と思いますが、おそらく漠然としたイメージしか持っていないのではないでしょうか。(筆 者も含めてです。)

医学的には、現在では「静脈血漿中のブドウ糖の濃度」という意味で使われることが殆ど であると思われます。

「血糖値が110mg/dl未満である」という文章の意味について考えてみます。これは、静脈 血漿1dl中にブドウ糖が110mg未満しか含まれていない、というように言い換えることが 出来ます。110mgちょうど含まれているとこれは、除外されます。これよりも少しでも少 ないことが必要です。109.9mgでも良いでしょう。これよりも、わずかに多い109.99mg でも良いのです。さらに、これよりもわずかに多い109.999mgでもよいのです。このよう に考えると110mg/dlを満たさず、110mg/dlに限りなく近い濃度はいくらでも考えること が出来そうに思われます。(もちろん測定機器の精度の問題があるので頭の中で考えている だけの話です。)

薬理学などでよく使われる理論式などは、この限りなく近い濃度が存在するということを 大前提に組み立てられています。(ある薬のある時刻での血中濃度を表す関数などは、実験 的に得たいくつかの法則から微分方程式を解くことにより導かれることが多い。)

血糖値をもっと単純化するために、ブドウ糖の水溶液について考えてみます。水溶液1リ ットル中にブドウ糖が全く存在しない場合、このブドウ糖の水溶液濃度は0です。次に濃 い濃度はこの水溶液中にブドウ糖分子が1個のみ存在する濃度です。その次に濃い水溶液 はブドウ糖分子が2個のみ存在する濃度です。

ブドウ糖分子が0.5個などというのはあり得ません。 (もし分子を半分に切ることが出来たとすれば、その切れた分子はもはや元の物質 とは別物になっているでしょう)。つまり、物質の濃度は0から最大限に溶かすことの出来 る飽和濃度の間ではどのような濃さの濃度でも作ることが出来るわけではありません。作 ることの出来ない濃度が無数に存在します。

濃度は「有理数」しか存在しないのです。有理数とは分数で表すことの出来る数値です。

数直線上にあらゆる濃度をプロットしても、「穴だらけ」であり決して連続していません。 このような性質のものを微分したり積分したりすることはできません。

しかし、現実問題としては分子1個の重さがあまりにも軽いので、 どのような濃度の溶液でも作ることが出来ると考えてもたいした問題は起こりません。

今回は、ちょっと現実離れした話題でしたが、たまには頭の体操でこのようなことを考え てみてはどうでしょうか。


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