糖尿病に関係のある遺伝子異常


糖尿病が遺伝と関係していることは、大昔から知られていました。その遺伝形式は大変複 雑でその全容を解明することは困難を極めていました。

しかし、最近少しずつですが糖尿病に関係のある遺伝子異常が解明されつつあります。

インスリンは、標的細胞の受容体に結合して初めてその作用を発揮します。 糖尿病の中にはこの受容体遺伝子に異常があるために正常な受容体が形成されず、 糖尿病状態となるものがあります。 いくつかのタイプが発見されています。

しかし、このようなタイプの糖尿病は非常にまれであると考えられています。

 インスリンが受容体に結合すると細胞内のインスリン受容体基質(IRS)といわれる タンパク質がリン酸化され、このあと次々と情報伝達が起こり最終的に血糖値が 下がる方向に進みます。

このIRSは少なくとも4種類が知られておりそれぞれ、IRS-1, IRS-2, IRS-3,IRS-4と命名されています。

このうちIRS-1を作らせる遺伝子の異常が糖尿病状態と 関係のあることは、比較的古くから知られていました。

日本人の糖尿病の約4分の1にはこの蛋白の異常が認められるという報告があります。 しかし、IRS-1に異常があってもIRS-2がこの働きを代償することがわかっており、 IRS-1の異常のみでは糖尿病にはなりま せん。さらに別の要素が加わって糖尿病が発病するものと考えられています。

グリコーゲンという言葉を聞いたことがあると思いますが、これはブドウ糖が原料とな っており血糖調節に役立っています。血糖が下がり気味の時はこれを分解してブドウ糖を 供給するわけです。ブドウ糖が過剰の時はグリコーゲンとして蓄えておきます。古くは「動 物でんぷん」などと呼ばれていましたが、現在ではこの名称を使うことはほとんどありま せん。

余談ですがトカゲなどのは虫類では体重あたりのグリコーゲンの量がほ乳類に比べ て極端に少なくなっています。トカゲを驚かせるとアドレナリンが放出されグリコーゲン が分解され、ついにはグリコーゲンが枯渇してしまいます。そしてついには低血糖で死ん でしまうことがあります。トカゲを飼うときはくれぐれも驚かさないことが重要です。

さて、グリコーゲンを合成する酵素を規定している遺伝子に異常があると、インスリン の効き目が悪くなる(インスリン抵抗性)こともわかっています。しかし、これだけでは糖尿 病にはなりません。やはり、他の因子が加わる必要があります。ちなみに日本人の糖尿病 の4分の1は、この酵素の異常があるといわれています。糖尿病でない人も同じくらいの 頻度でこの酵素異常があることもわかっています。

脂肪細胞は線維芽細胞から分化したものと考えられています。この繊維芽細胞から脂肪 細胞への分化に関係のあるタンパク質としてPPARγというものが知られています。このタ ンパク質に異常があると脂肪細胞が異常に増えて、高度の肥満になると言っている学者も います。このPPARγを妨害する薬が「インスリン抵抗性改善薬」として発売されていまし たが、現在は副作用のため製造されていません。

ベータ3アドレナリン受容体についてはすでに、 第41回「肥満に関係のある遺伝子」 で紹介してあります。

一口に「糖尿病」と言ってもその成因は実に複雑で、糖尿病は一人一人違うと言っても 過言ではありません。


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