飲み薬で、血糖が下がらなくなったときや、急性の重症感染症の時、 糖尿病性昏睡などの時にインスリン治療が必要になってきます。 数の上から言うと、飲み薬では、どうも血糖が下がらなくなり、 インスリン注射に移行してきた場合が多いと思われます。 この場合、毎日注射をするわけですから、注射の度に病院へ行くというのは、 現実的ではないので、自分で注射をするということになります(自己注射)。
しかし一般の方が、自分で、自分の体に針を刺すというのはなかなか抵抗があります。 注射器そのものの取り扱いになれていない、注射の時の恐怖心などが、 自己注射の導入に障害となります。
そこで、インスリン専用の注射器というものがいろいろと開発され、実用化されてきました。 昔は、ガラスの注射器でしたが、筆者が医者になったときは、 すでに専用のプラスチックの注射器が使われていました。 使い捨てなので、注射器の消毒をしなくてよい、落としても壊れないなど、 ガラス製にくらべて格段に取り扱いやすくなっています。 この専用注射器は、目盛りがccではなく、インスリンの単位にあわせて付いています。 これも最初のうちは、注射器本体と針がはづれるようになっていました。 しかしこれだと注射後にも、少量のインスリンが、本体と針との結合部に残ってしまいます。 そこで、注射器本体と針が一体となったものが登場しました。 基本的には、この形が現在も使われています。 これだと、インスリンの無駄が非常に少なくなります。 また、注射器の針もどんどん細くなってきています。 これは、細いほど、痛みが少ないからです。
また、自分で注射をするときの恐怖心を減らす器具もつくられています。 注射器を筒上の器具の中に入れ、これを皮膚に当てボタンを押すと、 瞬間的に針が刺さりインスリンが注入されると言うものです。 これだと臆病な人でも自己注射が出来るようになります。 また、これらの注射器は、インスリンを自分の必要量だけ瓶から吸い取る必要があり、 吸い取る量の正確さは、使う人の技術に依存します。
そこで、ペン型の注射器というものが登場しました。 ちょうど万年筆に似た形をしているのでこう呼ばれます。 万年筆のペンの所に針が付いており、 インクのカートリッジ部分にインスリンが入っていると思えばよいでしょう。 使う度に針のみ取り替えればよく、注射量も正確です。 携帯にも便利で最近はペン型の注射器が主流になりつつあります。 このペン型の注射器を使い捨てタイプにしたものも発売されています。
また、一風変わったものでは、針のない注射器というのもあります。 インスリンをものすごい勢いで吹き出して、直接皮膚を突き破り注射するというものです。 結構注射の時の音がうるさいので、神経質な人では恐怖心が高まるかもしれません。 現在、あまり普及はしていません。
以上が自己注射のための注射器です。 このほかに、少量のインスリンをポンプで持続的に注射するというものもありますが、 特殊な場合にしか使いません。
注射器一つをとっても、糖尿病治療は、いろいろとかわってきました。 しかし昔も今もかわらないのは「食事療法をしないで、血糖をよくして、合併症を防ぐ」 という方法が無いという事です。