ことの発端は2001年に「Diabetes」という学術誌に「適度のアルコールは糖尿病の発病を抑制する」という内容の論文が掲載されたことです。これによると、全く飲酒をしない人よりも、一日に15-29グラムのアルコールを摂取する人の方が糖尿病の発症率が低いとされています。これは、約5万人の人を対象にコホート研究をした結果だそうです。
コホート研究とは、ある集団をあるものに暴露されいる群と、暴露されていない群に分けて、ある病気の発症率や死亡率などを長期間にわたって観察する研究方法です。コホートとは古代ローマの歩兵隊の単位で「数百人からなる兵隊の群れ」という意味です。ここでは、アルコールに暴露された群と暴露されていない群に分けて観察を行ったということになります。
この論文では、アルコールの種類は関係がないとされています。
さて、すでに糖尿病になっている人にとってはアルコールはどのような影響があるのでしょうか。一日に一合程度の飲酒をする人は、全く飲まない人よりもHBA1cの値が低かった、という日本での研究もあります。さらに、食事の時の飲酒がインスリンの分泌動態を安定させるのではないかという、意見もあります。
しかし、糖尿病でも飲酒は無条件でよいというものではありません。当然のことながら、血糖コントロールが不十分であったり、糖尿病性の合併症を有していたり、肝臓や膵臓の病気を合併している場合は、飲酒は厳禁です。また、糖尿病の薬物療法を受けている人も飲酒は禁止されるべきと思われます。飲酒により抑制がきかなくなり、大量飲酒になってしまう人や、気が大きくなり食事療法を守らなくなる人もアルコールは厳禁です。
そして、何より大事なことは自分が飲酒をしてもよいかどうかを自己判断するのではなく、主治医の先生に相談してから決めることです。