ところが現実問題としてはなかなか大変な問題が含まれています。
「糖尿病においては血糖値が高いのを放置しておくのと、良好な血糖値を維持するのでは 後者の方が網膜症(眼の合併症)の起こる割合は低い」
これは、当たり前すぎることのように思われるかもしれません。しかし、これを科学的に 証明するのは大変な困難が伴います。
10人の糖尿病の患者さんを血糖コントロール良好群と不良群に分けて3年間観察したと します。良好群からは1人も網膜症の発生が無く、不良群からは1人が新たに網膜症を発 症したとします。これから直ちに血糖コントロールが良好であれば網膜症の発症が阻止で き、不良であれば網膜症になる、と言う結論はとても出せません。観察したグループがた またま、そのような結果になった可能性もあります。この「たまたま」というのがどのく らいの確率であるのかは統計学的に数値化することができます。この「たまたま」そうな る確率が非常に低い場合はかなり信頼のおける結論である、といえます。
「たまたま」の確率が非常に低い場合、「血糖値と網膜症の発生頻度は関係がない」という 仮定が棄却(否定)された、と考えます(つまり血糖値と網膜症の発生頻度は関係がある)。 しかし「たまたま」の確率が高い場合はどうでしょうか。この場合「血糖値と網膜症は関 係がない」という結論も導くことができません(しかし、これを「関係がない」と結論づけ てしまう間違いが少なくありません)。これを証明するにはもっと別な観察が必要になりま す。
少数の観察では「たまたま」の確率が高くなり、結局何の結論も出ないということが しばしば起こります。そこで、大規模な観察が必要となってきます。
数千人規模の患者さんを10年以上にわたって観察して得られた結果はかなり信頼性の高い結果ということが できるでしょう。
しかし、1つの施設でこのような大規模な観察は不可能です。 多くの施設で同じ条件で観察を続ける必要があります。これには莫大な費用と労力が必要です。
外国では以前からこのような大規模な研究が始められていて、最近ようやく、「血糖コント ロールと合併症の関係」についての結論が出始めています。
つまり、良好な血糖コントロールが合併症の発生や進行防止に重要であることか科学的に証明されています。