しかし、いくら器具が改良されたといっても注射に変わる投与方法があれば、 これに越したことはありません。
インスリンを注射以外の方法で体内に投与する方法は昔からいろいろ考えられてきました。
内服薬にして口から服用できれば理想的です。しかし、口から呑んだのでは消化酵素 によりインスリンが分解されてしまいます。消化酵素の影響を受けない剤形の研究もいろ いろ行われていたようですが実用化するには程遠い状態のようです。
口から飲むと消化酵素の影響を受けるので、座薬にして直腸から投与しようという考え も当然ありました。座薬で投与すると吸収が速く、消化酵素の影響も受けません。しかし、 動物実験などでは一定の割合で吸収されず、血糖の下がり方にばらつきが大きく実用化は されていません。また、各食前に座薬を使うのは精神衛生上好ましくない、という考え方 もあるようです。
口の中の粘膜から吸収させるという試みもありました。しかし、吸収率の良い剤形が見 つかっていないため実用化はされていません。
インスリンを点鼻で投与する研究はかなり進んでいたようですが、これも吸収が悪い、 鼻粘膜に影響が出るなどの理由で実用化にはいたっていません。
湿布のように皮膚から吸収させるという研究もありますが、実用のレベルに達していませ ん。しかし、インスリンに高い圧をかけて皮膚に吹き付け皮下まで浸透させるという方法 は実用化されています。液体を飛ばす力はかなり強く、名刺に向けて吹き付けると穴があ きます。針を刺さずに皮下にインスリンを入れることが出きるので痛みはほとんどないと いわれています。欠点としては器具が少し大きめで消毒などが煩雑であることです。また、 吹き付ける時にかなり大きな音がするので、「痛い」と錯覚することがあります。
また、特殊な方法として小型の機械から、1日中少しずつインスリンを皮下に入れるとい うことも行われています。
インスリンの投与方法は昔からいろいろ考えられてきましたが、現在のところ皮下注射 にとって変わるほど簡便ですぐれた投与方法はないようです。