ペットボトル症候群


 最近、新聞・週刊誌等で「ペットボトル症候群」(以下「ペ症」と略します)という病名を見たことがありませんか。 これは一体どんな病気なのでしょうか。

 つい先日までNHKで放映されていた、朝の連続テレビドラマに、 肥満した将棋差しがいつもペットボトルを傍らに置いて清涼飲料水を飲みながら将棋を指す、という場面がありました。 これはまさに、「ぺ症」発症前の状態です。

おそらくこのテレビドラマの作者は「ぺ症」についての知識があり、このような場面を作ったのでしょう。 それほど「ぺ症」は増えてきています。

 「ぺ症」では、その名の通りいつも、ペットボトルを手に持っており、常時清涼飲料水を飲んでいます。 そのうちに、体重が減少してきてついには、昏睡に陥り救急車で病院に運ばれることになります。 体の中では一体どんなことが起こっているのでしょうか。

 「ぺ症」についての明確な定義はまだないようですが、一般には次のようにいわれています。 「清涼飲料水を多飲して、高血糖になりついには、ケトアシドーシス(糖代謝がうまくいかず血液や尿中にケトン対が増える状態) を発症し初めて糖尿病と診断されるもの。」

「ぺ症」は、血縁者に糖尿病の人が多く、肥満した若年男性に多いといわれています。 もともと、軽い糖尿病(もしくは糖尿病までいかない境界型)があり、清涼飲料水をたくさん飲むことにより高血糖をきたします。 高血糖になると尿量が増えますのでのどが渇きます。 ますます、清涼飲料水を飲むようになります。肥満があるのでもともと血液中のインスリンはたくさんあります。 (肥満している人ではインスリンの効き目が悪いので膵臓からたくさんインスリンが出されます。) しかし、清涼飲料水の多飲によりインスリンがますます必要になります。 ついには、インスリンを出す細胞が疲れ果ててしまいます。 さらに、高血糖はそれ自体毒性があり(糖毒性といいます)インスリンを出す細胞を傷害します。 ついには、インスリンの絶対量が不足しブドウ糖がうまく利用できなくなります。 そうなると、エネルギーを得ることができなくなりますから体は、脂肪を分解します。 これがケトン体となり、ケトアシドーシスへと進展します。治療が遅れると死亡することもある大変恐ろしい状態です。  「ぺ症」はもともとが軽い糖尿病もしくは境界型の人が多いので治療がうまくいくと食事療法のみで血糖のコントロールがうまくいくことが多いようです。 「ぺ症」になった人の長期間にわたる観察結果はまだ出ていません。 将来合併症が多いのか、それとも軽度の糖尿病状態が続くのかなどはよくわかっていません。

 現在糖尿病の治療をしていて、食事療法が守れず高血糖が続いている人は「ぺ症」と似たような状態が体の中で起こっている可能性があります。 普段の血糖コントロールが重要なことはいうまでもありません。


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