糖尿病とオブジェクト指向


さて、今回は実際的な話ではなく、少し概念的なお話をします。 コンピュータ・プログラミングの世界では、 数年前から「オブジェクト指向」という言葉が盛んに使われ始めました。 コンピュータに慣れ親しんでいない方には、聞き慣れない言葉だと思います。 この言葉の厳密な意味は、非常に難しく、 これだけで分厚い解説書が1冊書けるほどの内容を含んでいます。

また、時代とともにこの言葉の意味も少しずつ変化してきています。 さらに、広い意味で使う場合と、狭い意味で使う場合ではかなりその意味合いが違います。 この概念が出てくるまでは、コンピュータプログラムは「手続き指向」と 言われる方法で書かれていました。 ある目的を達成する手順を、順番に記述していくのです。 ところが、この方法ですとプロクラムに柔軟性がなくなってしまいます。

たとえば、家計簿のプログラムを作るとしましょう。 はじめに、収入を入力し、これから使った品物の代金を入力し残金を出す プログラムであるとしましょう。 ところが使っていくうちに、ちょっとしたメモも記録したい、 購入した品物を分類してそれぞれの合計金額も出したいなどと いろいろ機能を追加したくなる場合がよくあります。

こんな場合、「手続き指向」で書かれたプログラムであると修正・追加がかなり面倒です。 場合によっては、はじめから書き直した方が早いと言うことになるかもしれません。

しかし、「オブジェクト指向」では、はじめにたとえば、 「家計」というオブジェクトを作ってしまいます。 このオブジェクトの中に「残金を計算する」「購入したものを分類する」 「それぞれの分類の合計を出す」などの機能を追加することになります。 これは、比較的容易なことです。これが狭い意味でのオブジェクト指向です。

広い意味でのオブジェクト指向は、よく例に出されるのがワープロです。 昔のワープロでは、まず何をするのか(複写、切り取り、削除など)を選択します。 次に、どの部分に対してその操作を行うのかを指定します。 まさに、「手続き指向」型の操作法です。

これに対して、現在のワープロは、まず「何を(オブジェクト)」に相当するところを選択します。 その後で、それをどうするのかということを決めます。 つまり、はじめに「オブジェクト」があるのです。 あくまでも「オブジェクト」が中心となるわけです。

前置きがすっかり長くなってしまいましたが、 これと糖尿病はどういう関係があるのでしょうか。 今までの糖尿病の知識は、どちらかというと「手続き指向型」であったような気がします。 すなわち、「糖尿病になると、こういう症状やこういう検査所見が出る。 悪いコントロールが続くと合併症が出る。 合併症には、網膜症、腎症、神経障害などがあり、その場合検査所見はこうなる。 これを防ぐには、こうしなくてはならない。」という具合です。 しかし、実生活の場では、こういった知識では役に立たないことも多いかと思われます。 あくまでも、現実の今ある事態(オブジェクト)に対して、 どうしなくてはならないか、どうするのかということの方が重要でしょう。 糖尿病の教育・診療等全ての分野において新しい指向が要求されてきているような気がします。


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