従って研究者により、糖尿病患者の消化器症状の出現頻度にはかなりの幅があります。 たとえば、便秘については糖尿病患者の20%にみられるとする報告やら、 60%にみられるとするものなど大きな差があります。
しかし糖尿病では、胃腸の運動に異常が起こるということは確かな事実です。 糖尿病による神経障害により胃腸の運動に異常を来すと考えられています。
具体的には、糖尿病では胃から食物を腸へ送り出す働きが弱ってくることがあります。 いつまでも食べたものが胃の中にたまっており、 食欲不振や、悪心・嘔吐、腹部膨満感などの症状につながることがあります。 しかし、これを感じる神経も弱っており無症状のこともあります。
これがひどくなると何日間も食物が胃の中に貯まってしまい、 ついには吐くということが起こります。 このような場合、吐いたものの中に数日前に食べたものが混じっているということがあります。 (以前はこのような状態を胃が麻痺しているということで 「胃麻痺」と呼んでいましたが最近はこのような言葉はあまり使われなくなりました。)
食べたものが、いつまでも胃の中にあると食後も血糖があがらないという 奇妙な現象も起こってきます。 インスリンを使っている人では、低血糖の原因になることもあります。
最近では、「胃電図」という装置で胃の電気的変化を調べて 胃の運動異常を早期に発見しようという試みも行われています。
また、腸の動きに異常をきたし、糖尿病に特徴的な症状が出ることがあります。 「糖尿病性下痢」といわれるもので、腹痛を伴わない夜間の急激な水様性の下痢で、 しばしばトイレに間に合わず衣服を汚してしまいます。 この下痢は、ふつうの下痢止めではなかなかおさまらずかなり強い薬を必要とすることがあります。
糖尿病による消化器症状が非常に強く出る場合は、 目や腎臓の合併症を持っていることも多く注意が必要です。