糖尿病とQOL


最近、新聞や週刊誌などでよく「QOL」という言葉がでてきます。 これは、クォリティ・オブ・ライフの頭文字をとった略語で、 「生活の質」という意味です。 医学が、発展したおかげで、いろいろな病気の治療法が進歩し、 平均寿命も延びてきました。 しかし、いくら寿命が延びたといっても「生活の質」がよくなっていなければ、 あまり意味はないと思われます。 たとえば、インスリンが発見される以前は、糖尿病の急性合併症で、 命を落とす人が少なくありませんでした。 インスリンが日常の臨床で使われるようになってからは、急性合併症で、命を落とす人は、 激減し、糖尿病の患者さんの寿命は急速に延びてきました。 しかし、その反面しっかりとした血糖コントロールを行わなかったために、 慢性合併症(網膜症→失明、腎症→透析)に 苦しんでいる患者さんが増えてきていることも事実です。 いくら寿命が延びても、正常な社会生活が送れなくては意味がありません。 糖尿病治療の目標のひとつは、血糖値を良好に保ち、合併症の発症、進展を阻止し、 良好なQOLを維持することにあります。  では、QOLを具体的に評価するにはどうしたらよいのでしょうか。 いろいろな研究者が、これを客観的に評価する方法を考案していますが、 決定的な物はまだないようです。 多くの場合、身体的、精神的、社会的問題について、質問票に答えてもらい、 その回答の組み合わせにより、QOLを評価するといった方法が採られます。 具体的には、一人で歩くことができるか、くよくよ悩んでいることがあるか、 人付き合いがおっくうになっていないかなどといった質問に答えてもらう方法です。 これが必ずしも、QOLを評価する最良の方法とはいえませんが、 現時点では、ある程度の目安になると思われます。 筆者が、65歳以上の糖尿病患者さんにこの質問票を用いて、 QOLの調査を行ったところ、いくつかの興味深い結果を得ました。 一つは、血糖コントロールの善し悪しと、QOLは関係がないということです。 血糖が高くても、痛くもかゆくもないので、QOLには影響しないのです。 次に、治療法とQOLも関連が少ないということです。 筆者は、インスリン注射をしている患者さんは、毎回痛い思いをし、煩わしさがあるため、 QOLが低くなっていると予想していましたが、 意外な結果でした。 次に脳卒中で、体に不十が生じた場合、極端にQOLが悪くなるということです。 この場合、身体的にはもちろん、情緒的、社会的な方面のQOLも悪化します。 脳卒中で、体の自由がきかない→精神的にもイライラし、 情緒が不安定となる→人付き合いも悪くなりますます孤独になる→生活の目標もなくなる  といった悪循環がおこるのでしょうか。 いずれにせよ、糖尿病を持っている人は、常に血糖コントロールを良好に保ち、 合併症を起こさず、良好なQOLを維持しつつ長生きしてほしいものです。


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